教育活動・学校生活の随所に散りばめられるキャリア教育
Introduction
新しい時間割による「FYMプロジェクト」が2023年度にスタート。月・火・木・金・土曜日の週5日は昼食前に「正課授業」を行い,昼食後は「充実した放課後活動」として,興味・関心に応じて学びを深めていきます(水曜日は正課授業を7時間)。体験や人との関わりから得られるものの大きさと学習効果の高さ故に導入した取り組みです。
FYMプロジェクト
「Find Your Mission」の頭文字をとって「FYM」。「あなたの使命を見つけよう」というプロジェクトです。午後の過ごし方を生徒それぞれが自由に組み立てることで,思考力も養われます。2024年度は,学力養成系講座が約40と体験活動系講座が約50,それぞれ開講予定です。そのほか,部活動や自習,宿題に取り組んだり,帰宅して習い事に励んだりしてもOK。好きなことに熱意を傾け継続することで,将来の目標を見出す生徒も多いと言います。
以下は講座の抜粋です。
学力養成系 |
|
体験活動系 |
|
進路傾向
特進プログラムコース1クラス,セレクトデザインコース2クラスという編成です。
特進プログラムコースは,上智大学のカトリック高等学校対象特別入学試験受験者を除いた全員が,一般選抜で国公立や難関私立の四年制大学を受験します。
セレクトデザインコースは,年によって短大・専門学校進学者が数名出ますが,ほとんどがGMARCHや看護・薬学などの医療系または芸術系の四年制大学を志望。そのうち7割強が年内入試(総合型選抜,学校推薦型選抜の指定校制と公募制)で進路を決定し,3割弱が一般選抜にチャレンジします。
学部の分野はコースによる違いがそれほどありません。語学・国際系,看護・医療系が比較的多めですが,多岐にわたる分野に進学しています。大きく分けると,文系約6割,理系3割強,その他1割弱となります。
入学試験のミスから合格へ!
『高校受験案内』巻頭特集で紹介した長濱栞(ながはましおり)さんは,上智大学のカトリック高等学校対象特別入学試験でミスがありながらも合格しました。経緯をもう少し説明しましょう。
試験当日,彼女は小論文試験の後,口頭試問を受けるべく,控室で待っていました。第1志望者と第2志望者に分けられ,第1志望者から口頭試問が行われたそうですが,長濱さんは第1志望なのに1人取り残され,第2志望者に順番が追いこされていきました。不安でいっぱいの長濱さん。やっと名前が呼ばれ,口頭試問が始まると,志望理由について鋭い質問が飛び,そして,小論文の問題読み違えを指摘されます。その場で答えを問われて焦る中,ニュースで見た事例を交えながら何とか答えましたが,「もうダメだ,落ちた」と確信。
なぜ合格に至ったのでしょう。副校長の森山敏久先生は次のように話します。
想像するに,口頭試問に長濱さんが呼ばれるまで長くかかったのは,志望理由書などを見直していたからかもしれません。彼女は小論文の問題を読み違えたけれど,おそらく志望理由書の評価が高く,チャンスが与えられたのでは。そして,口頭試問で小論文試験の正解を答えられたのだと思います。上智大学に憧れて受験する生徒が多い中,長濱さんの志望理由はブレがなく意志が固かった。彼女にとって上智は,ベストワンではなくオンリーワンの大学でした。大学からすると,こういう学生に入ってほしいと思ったでしょう。志望理由書がいかに重要か,志望理由書の価値がよくわかりました。(森山敏久先生)
丁寧な受験指導
総合型選抜や学校推薦型選抜を利用する生徒が多いため,その対策が充実しています。
長濱さんが受験した上智大学のカトリック高等学校対象特別入学試験は,総合型選抜に近いもの。志望理由書を提出しましたが,彼女は最初から志望理由をはっきりと言葉にできたわけではありません。志望理由書をどう作成し,どのようなサポートを受けたのでしょう。
志望理由書添削講座・小論文対策講座
長濱さんが2年次の時,FYMプロジェクトは本格的には始まっていませんでしたが,プレ講座が設けられていました。その中から彼女は「志望理由書添削講座」を選択。この講座は,学びたい分野は定まっているが,志望校はまだ決まっていないという生徒も受講可能で,自分の学びたいことが学べる大学を探すところから始まります。初めて書く志望理由は200字ほど。それを先生が添削し,次は文字数を少し増やして書き,また添削してもらうことを繰り返し,訓練します。
「小論文対策講座」は3年次に受講。毎週のように小論文に取り組み,書いては提出し,先生に添削してもらいます。同じ言葉を使いすぎるといった指摘も。長濱さんは自分の考えを言語化するのが苦手で苦戦しましたが,かなり力をつけられたと実感したそうです。
個別指導
長濱さんの志望理由書添削は,3年次になると個別指導という形で継続されました。どのような指導だったのでしょう。
志望校が決まり,実際の志望校で志望理由をまとめる初期段階で,だいたいの生徒はまだ漠然とした内容です。疑問点や足りないこと,説明の甘さなどを先生が指摘し,生徒はそれらの”穴”を埋めようと志望理由を追究していきます。添削を重ねるうちに,志望理由が鋭さを増していき,複数の要素が集まって太い幹となるイメージです。
長濱さんの夢は「文化財保護に携わる公務員となって文化財保護の制度を整えること」。そのために進むべき大学・学部はどこか,考えました。文学部史学科か法学部か悩み,「行政法」と「博物館学」の両方を学べる大学を探して上智大学にたどり着き,法学部法律学科をめざすことに。しかし,「文化財保護に関わるのに,なぜ史学科ではなく法学部なのか,と聞かれたらどうする?」と指摘されます。自分を振り返り,自分が何をしたくて,なぜ上智大学の法学部を選んだのかを突き詰めました。
先生からの指摘を受け止め,真摯に考えて答えを導き出し,志望理由書に落とし込んでいきました。こうした工程を経て,具体的で説得力ある志望理由書が書き上げられたのです。
海外の文化財保護の事例を日本の制度に組み込んでいきたいと考えていたので,外国語や海外の文化についても深く学べる上智大学が自分に「ぴったり!」と思いました。また,公務員という職業,制度の整備という業務内容に結び付いたのは法学部でした。
日々の教育活動がキャリア形成のきっかけに
職業観や職業倫理を育むことを大事にしていますが,「キャリア教育」という授業を設けているわけではありません。各教科の授業や「FYMプログラム」,課外の取り組み,行事など,日ごろの生活に,職業観や職業倫理を考える糸口が散りばめられています。
総合的な探究の時間
社会科,家庭科,宗教科などの授業に,探究型学習が取り入れられています。
宗教科では生命倫理をテーマとし,「出生前診断」「脳死」といった,命の尊厳について1年間研究します。調査の仕方や資料の扱い方を学び,答えのない問いに対して悩みながらも自分なりの答えを見つけ出すなどして,探究力を鍛えます。
探究型学習を通じて学んだことが基礎となり,大学での研究に活かされていきます。また,日ごろ,疑問を感じたり,興味を覚えたりした時や,自分の進路を考える時にも,探究スキルは発揮されます。
高大連携講座
学年ごとに受講する講座と,FYMプロジェクトとして設定されている希望制の講座があります。大学での体験は,学問への興味・関心・意欲を刺激し,高校での学びを大学に昇華させる役割も担います。実際に,連携した大学に進学した生徒も。
高大連携協定 | 東京薬科大学/北里大学/国立音楽大学/東京女子大学 |
協力大学 | 東京純心女子大学/津田塾大学 |
海外研修・留学
英語を聞いて英語で理解し,英語で考えるという,英語の思考回路の獲得をめざしています。培われた英語力を大学でさらに伸ばし,もっと学びたいという生徒が多数います。
1年次に全員が海外経験を積むのが特徴的。特進プログラムコースはニュージーランドへ3か月留学し,ホームステイをしながら現地の学校に通います。探究型学習も盛り込まれます。セレクトデザインコースはフィリピン・セブ島で研修を実施。現地の高校生と英語で交流したり,ボランティア活動を行ったりする1週間です。
オーストラリアの姉妹校と交流する機会や,選抜者による2か月ターム留学なども用意。
学びの成果は英語検定の結果にも表れています。2022年度は,1年次の準2級取得率が2コース合わせて約70%,特進プログラムコースは2年次に全員が2級を取得という実績。2023年度は準1級に2・3年次合わせて10名が合格しました。
平和な未来を創る人を育てる
長崎県に本部を置く「純心聖母会」を設立母体とし,被爆して多くの生徒・教職員を失った学校をルーツに持つ本校。平和への願いは切実で,「平和な未来を創る人」の育成を使命としています。武器ではなく,人との関わりやコミュニケーションによる平和の構築をめざします。英語教育に力を入れるのも,英語力を活かして世界の人々と対話し,平和のために役立ててほしいとの願いからです。
一人ひとりがもって生まれた使命に気づき,それを実現させる力を養う環境を整えています。日常生活や学校内外での様々な教育活動,人との出会いや交流は,自分の使命を知る契機となるでしょう。高校生活を通して得た何かと何かが,生徒の中で連結して積み重なり,人のために学び,平和な世界に貢献できるよう,キャリアを形成していくのです。
東京CPA会計学院 高等課程
八王子実践 高等学校
コロンビアインターナショナルスクール 専修学校高等課程
ここではキャリア教育の詳細をレポートしましたが,書籍の『首都圏高校受験案内』では,学校基礎情報や,ほかの教育内容,進路情報,入試情報,クラブ活動などを紹介。偏差値,合格・不合格者の分布図からは,合格のめやすがわかります。