鮮烈なインパクトの入浴剤!「吹屋ベンガラの湯」
Instagramを見ていたら、真っ赤な液体の写真が目に飛び込んできました。高校生が企画して商品化された入浴剤とのこと。真っ赤な入浴剤だなんて衝撃です。何がどうしてこれが生まれたのか、とっても気になりました。
この入浴剤を企画したのは城西大学附属城西高等学校の生徒達でした。昨年(2021年)の高校2年生が修学旅行での課題に対して発案。岡山県高梁市吹屋地区の皆さんにプレゼンテーションして、採用されました。それから開発に約半年をかけ、「吹屋ベンガラの湯」として商品化。今年(2022年)10月の文化祭で販売されました。
修学旅行は単なる旅行ではない
「修学旅行での課題」と紹介しましたが、どういうことかというと…。
城西大学附属城西高等学校の修学旅行は本来、ハワイ、台湾、国内からの選択制。2021年度はコロナ禍にあり、行き先は国内のみとなりましたが、2つのコースが用意されました。東日本大震災の被災地に赴く東日本コースと、西日本の5府県の過疎地を訪れる西日本コースです。さらにグループに分かれ、修学旅行中に訪問先の課題とその解決策を考え、議論し、発表するという探究活動が盛り込まれた、学び多き旅なのです。
●東日本コース
震災から10年を経た被災地に入り、復興に対する様々な考え方があることを知ります。地震の爪痕を保存すべきという人もいれば、反対に、見るのは辛いから残さないでほしいという人も。元の暮らしに戻りたい、新しい都市計画を立てたいなど、どれもそれぞれの心情や状況により、もっともな意見。復興とは何かを考えました。
●西日本コース
大阪・兵庫・鳥取・島根・岡山に分かれて各地の過疎の現状を目の当たりにし、地域活性化のアイディアを提案。今回、取り上げているのは、こちらの岡山県高梁市吹屋地区を選んだグループです。出発前に調査や準備はしていましたが、現地を見てからが、本格的な探究活動となります。修学旅行中にグループ内で話し合い、プレゼンテーション資料を作り、どうすれば伝わるかを練って、現地の方に発表。
なぜ赤い?「吹屋ベンガラの湯」
ところで、この入浴剤はなぜ真っ赤なのでしょう。「ベンガラ」とは?
吹屋は「弁柄(ベンガラ)」という赤い顔料と銅の産出地として、江戸時代に栄えました。弁柄は陶磁器や漆器といった伝統工芸品の着色に用いられ、防腐効果があることから、建造物や船舶の塗料に使われ、全国に流通。吹屋の家々の瓦や壁、格子にも多用され、今でも赤い街並みが1.5㎞ほど続きます。
城西大学附属城西高等学校の生徒達は、地域活性化のために、吹屋で栽培に力を入れている唐辛子を使った商品を作ろうと考えました。唐辛子はカプサイシンという成分を含み、美肌、冷え性や血行不良の改善、高血圧予防などの効能があることから、入浴剤を思い付きます。そして、唐辛子と赤い弁柄のイメージが重なったのです。他に例を見ない、魅力的な赤い街並みを、地域活性化の手段に使わない手はありません。吹屋を訪れたからこそ、ひらめいたのではないでしょうか。現地に触れて体験することの大切さを感じました。
ついに完成!「吹屋ベンガラの湯」
修学旅行のプレゼンで採用された入浴剤の提案は、その後、現地のさとう紅商店と協働し、製品化に向けて動き出します。オンラインミーティングを重ね、パッケージデザインなども生徒が手がけました。
そして今年9月、生徒達は1年ぶりに吹屋を訪問。完成した「吹屋ベンガラの湯」のお披露目会のためです。住民の皆さんの前で、入浴剤をお湯に溶いて見せると、「お~! すご~い」といった歓声が上がりました。「これは自信を持ってみんなにPRしていっていいのかなと思う」などの感想も。今後、現地の商店でお土産品として販売されるそうです。
この商品は文化祭で販売され、受験生対象の説明会でも配布されました。この活動を通して、身をもって様々なことを学んだ生徒達。入浴剤の企画は区切りがつきましたが、生徒達は今後の人生においても、この体験を糧に、問題意識を持ち、課題に向き合って解決策を模索したり、人と協働して物事に取り組んだりといった、探究の姿勢を持ち続けていくことでしょう。
高校3年生になった生徒は今
入浴剤の企画に携わった生徒達は今、高校3年生。卒業後の進路に向けて頑張っています。そのうちの2名は、修学旅行での活動をきっかけに、地域活性化・地域創生への貢献を志すようになりました。それを志望理由書にまとめ、大学の総合型選抜にチャレンジ。Aさんは11月現在、受験中。Bさんは合格を勝ち取りました。
●Aさん
メディアを通じた地域活性化をめざそうとしたところ、SNSの限界に気づき、テレビ局への就職を決意。各メディアの特性と、各地域の特色や課題をよく理解する必要性を感じ、自分がテーマとする研究を進めるために、社会学部メディア社会学科を志望しました。
●Bさん
地方が抱える課題の多さを具体的に知ったことで、地方公務員として地方創生に貢献していきたいと考えています。施策を推進し、困っている人の手を自ら取って課題を解決したい。その目標達成に向けて、総合政策学部総合政策学科を志望。
真のキャリア教育とは
校長の神杉旨宣先生は、今年10月の学校説明会で、この修学旅行の取り組みと、総合型選抜に臨む2名の生徒を紹介し、「これこそがキャリア教育です」と力強く話していました。キャリア教育とは、どの大学にどんな学部があるかを教え、偏差値表を見て大学を選ぶことではないのです。様々な経験を通して自分の進む道を見出せる学校生活を提供し、実現に向けて行動できるようにサポートすることではないでしょうか。
「様々な経験」を積む中で大事なのは、「成功体験ではなく、同じ数くらいの失敗体験」なのだと神杉校長先生は言います。入浴剤の開発は、外部との打ち合わせや会議がオンラインで行われることが多く、相手の気持ちやこちらの意図が伝わりにくい部分もあるなど、いろいろな苦労があったそうですが、生徒の熱意が相手側にも伝わり、問題をひとつひとつクリアして、見事に形になりました。また、修学旅行の他グループのプレゼンテーションの中には、反応が鈍かったり、提案が受け入れられなかったり、手厳しく意見されたりしたものもあったそうです。ですが、大人の前で発表してうまくいかなかった経験には、とても価値があります。生徒は悔しい思いを糧に成長し、自己肯定感を得た時に、人々に恩返しをしたいという思いを抱き、その対象が身の回りの人から段々と広がり、グローバルになっていきます。本校の校訓「報恩感謝」につながるキャリア教育が実践されていました。
城西大学附属城西高等学校
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