大学で終わりではなく,その先をどう生きるか
Introduction
上野学園高等学校の建学の精神は,人としての「自覚」を持つこと。自らの在り方や可能性を追求し,適性や個性を見出して高めてほしいと考えています。進路指導にもその方針は表れ,「どこの大学に行くか」ではなく,「どう生きていきたいかをしっかり考えさせること」に留意しています。
普通科と音楽科があり,1学年のクラス数は年によりますが,だいたい普通科の特別進学コースが2クラス,総合進学コースが4クラス,音楽科が1クラスの編成です。
進路傾向
人生設計や将来の志望の多様性を考えた上で,四年制大学進学を選ぶ生徒が多く,約8割を占めます。
文系,理系,その他の比率は,全体で6:3:1。普通科の文理比率は7:3ですが,特進コースは6:4と,理系の割合が少し高くなります。人気の分野は,文系が経済,理系が情報。総合型選抜や学校推薦型選抜を選ぶ傾向が強く,約9割の生徒が年内に受験します。
大学受験をどう乗り越えたか
卒業生の中島智畝さんは『高校受験案内』の誌面で紹介したように,近畿大学に魅力を感じ,入学を熱望。志望大学を1つに定めると,他の大学への進学も,受験も考えませんでした。問題は,学力が合格レベルに達していなかったこと。志望校を決定した高校2年次の終わりごろに奮起し,そこから猛勉強。模擬試験の判定はずっと思わしくなく,受験前の最後の模擬試験(10月)に漸く望みある判定を得ることができました。
どのように受験勉強を進めていったのでしょうか。
モチベーションのアップ
中島さんが初めて近畿大学を訪れたのは高校2年次の3月,オープンキャンパスの日でした。一歩足を踏み入れた瞬間から感動の連続で,近畿大学が目標となりました。モチベーションマックスで,その後すぐに受験勉強をスタート。周囲の友達が「どうしたの?」と驚くほどの変化でした。
しかし,6月くらいになると,勉強に辛さを感じてモチベーションが下がり気味に。そこで,また近畿大学のオープンキャンパスに足を運びます。計3回参加。それぞれ参加人数や内容が異なり,「あ,やっぱり僕はここに行くんだ!」と,気持ち新たに頑張ることができました。
また,クラスに置いてある自分の個人ロッカーに志望大学や模試の結果を貼り出す生徒もいたそうです。クラスメイトに表明することで自分を鼓舞し,お互いの志望校や状況を知ることで,受験の意識を高められたと思います。
中島智畝さんの学習サイクル
放課後はまず,学校の自習室で,閉室時間の19:00まで勉強します。その後は帰宅して家庭学習,ではありませんでした。
中島さんは,自分が自宅では怠けて勉強しないと分析し,外部の自習室を利用することにしました。見つけたのは,予備校の自習室などではなく,大人も利用する会員制のラーニングスペース。『ポケット六法』を開く人,司法書士の勉強をする人など,いろんな人がいて,中島さん曰く「とてもじゃないけど,そこでスマホなんて触れない」というほど皆,真剣。大人に混じって勉強するのはとても刺激になったそうです。22:00まで利用して帰宅しました。
「家では勉強できない」とのことでしたが,それでも中島さんは,寝る前に英単語の勉強だけは絶対にやると自分に課し,実行。
これを放課後のルーティンとしました。
自学自習の助けとなるSAKURA手帳
上野学園オリジナルの「SAKURA手帳」は見開き1週間のバーチカルタイプで,日にちが横に並び,時間軸が縦に書かれています。生徒全員に配布されますが,使うかどうかは担任の先生の方針や生徒の自主性に任されます。
中島さんはしっかり活用。日曜日に1週間の予定を立て,水曜日に遅れがないかをチェック,土曜日に振り返り,日曜日にまた作成という流れです。当初は細かく予定を組んでいたそうですが,その通りには行かないものだとわかり,融通の利く予備の時間を作ったり,復習の時間を必ず入れたりという工夫をしました。コツを掴むと計画的に学習を進められるようになったそうです。
問題演習は個別にも対応
中島さんの受験科目は英語と数学。英語は出題傾向を掴み,対策を講じました。
一方,数学は不安がありました。過去問題の採点結果が安定せず,点数が上がったり下がったりしていたのです。そこで数学科の下井英弘先生に問題演習を頼み,授業以外にもたくさんの問題を出してもらいました。解いて,わからなければチューターに質問し,解いては復習し,1週間分の問題を日曜日にまた1つずつ解いて… と繰り返して力を養成。下井先生は問題をプリントで渡します。最初はファイリングしていた中島さんですが,整理しきれないほどの量に。積み上がったプリントの山は,可視化された努力であり,達成感があったことでしょう。
チューターからのじっくり指導
東工大,千葉大,上智大などの学生が勉強を教えてくれるチューター制度があり,中島さんもかなり利用しました。
下井先生が出してくれた問題は,私立大学の入試問題だったり,国公立大学の二次試験問題だったり,先生が作問してくれたものだったり,多岐にわたります。わからないことがあると,中島さんは数学担当のチューターに質問。1対1なので,細かいことも納得するまで教えてもらえて「メチャメチャ良かった」そうです。
この制度は2023年度より,後述の「ALCO」に発展しました。
高め合う仲間,支える先生
中島さんはクラスメイトにも質問。中島さんが受ける推薦入試(一般公募)は11月下旬だったので,一般選抜を受ける友達はまだ少し余裕があり,快く教えてくれたそうです。「もう,授業料を払ってもいいレベルで聞いてました」(中島さん)。
そして,試験日を迎えます。試験は2回あり,中島さんは2回とも出願。1日目に手ごたえを掴めず,帰りの電車で泣くほど落ち込みましたが,下井先生の励ましに,「まだ明日があるから頑張ろう」と気持ちを切り替えて,2日目に臨むことができました。
入試はそれほど甘くないので,無責任に優しいことは言えない。「ダメだったら,次に向かっていくしかない」といった言葉をかけましたが,それが励みになったのなら,数学の指導以上に嬉しいことですね。(下井英弘先生)
近畿大学の合否判定は複数の方法があり,中島さんは3つの方式を選択。入試2回×3方式=6回の合否判定チャンスがありました。蓋を開けてみると,なんと4つの合格を手にすることができました! それを聞いたクラスメイトは,大きな拍手を中島さんに贈ってくれたそうです。自分の入試はこれからという時に,他の人をきちんと祝福できるのは,素晴らしいことです。
中島さんは自分の入試が終わっても,学力維持のために勉強を続けていました。すると,一般選抜を受けるクラスメイトが中島さんに質問するように。今度は中島さんが教える側となりました。
放課後自習システム「ALCO」がスタート
多くの生徒が自学自習を習慣化できるよう,2023年度より「ALCO(After school Learning Commons)」という放課後自習システムを導入。「リアル自習室」「オンライン自習室」「24時間チャット質問対応」という3つの形態があります。
「リアル自習室」は,平日19:00まで,土曜日16:00まで利用できる学校の自習室。生徒は,授業課題や配信動画授業,補習課題,英語検定対策プログラムなどに取り組みます。生徒の学習状況を確認し,改善を図る室長を配置。認定コーチと呼ばれる大学生もいて,勉強の仕方をコーチングしたり,質問に対応したり,面談するなど,サポートします。
各種テストの結果やALCOでの学習状況,担任との面談などの情報は共有されて,校内連携が一層進められます。生徒が将来に向けて,次のステージに踏み出せるよう,丁寧な指導,きめ細やかなフォローアップの体制が整えられています。
一人ひとりの進路を開拓する学び
建学の精神である「自覚」を促すためとも言える教育活動をいくつか紹介します。
探究学習「マイプロジェクト」
1年次は探究サイクルの基礎を学びつつ,自分と向き合い,興味や適性を掴みます。
2・3年次はゼミ学習。情報学や医療科学,教育学,社会学など,10分野の探究ゼミから,興味や進路希望に基づいて1つ選びます。2年次はチームで探究し,その中で自分の役割を自覚して責任を果たします。3年次は個人で研究してレポートを作成。
卒業生の中島さんに聞くと,「上野学園の探究は,調べるだけでは絶対許されません。自分の考えをまとめないと探究とは言わないっていう指導でした」と話してくれました。
頑張らないと終わらないので,主体性や行動力が身につくなど,大きな意識変化が見られます。また,この研究を継続して大学で深めたいという生徒や,大学の総合型選抜の活動報告書に活かす生徒がいて,進路に直結するケースも多数。学力の三要素と言われる「知識・技能」「思考⼒・判断⼒・表現⼒」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」すべてに通じる活動です。
放課後チャレンジ講座
月曜日から土曜日まで放課後に開かれる自由選択制の講座です。普段の授業とは一線を画し,生徒がワクワク感を持って主体的に学ぶことを大事にしています。大学の先生や専門家を招いたり,民間団体の協力を得たりして揃えた講座は,映画作成ゼミ,第二外国語講座(イタリア語),プログラミング講座,宇宙プロジェクト,美術,サクソフォンなど,23講座。生徒達は「普段の勉強をもっと頑張ろうと思った」「自分の知らない進路を考えられた」といった感想を述べています。
上野学園には,生徒が自分の興味・関心や可能性に気づき,花開かせていく学びの場が用意されています。自分がどんな人間で,社会でどんな役割を果たせるか,どう生きたいか,どう生きるべきなのかという自覚をしっかり持って,社会に羽ばたくでしょう。
八王子実践 高等学校
コロンビアインターナショナルスクール 専修学校高等課程
ここではキャリア教育の詳細をレポートしましたが,書籍の『首都圏高校受験案内』では,学校基礎情報や,ほかの教育内容,進路情報,入試情報,クラブ活動などを紹介。偏差値,合格・不合格者の分布図からは,合格のめやすがわかります。